バスに乗り、パレスチナのベツレヘムという街に向かっている。外は曇り空で、どんよりとした重い空気が車内にも広がっている。 パレスチナという地域について、その文脈を語り尽くすことは到底できない。いくつものピースを抜き取られたジェンガのような、複雑で不安定な歴史の上に成り立っているのがパレスチナだ。さしあたり旅人が抑えておくべきは、イスラエルとの仲が悪いということである。パレスチナでの宿は予めとってあったのだが、その予約完了メールには「このメールは印刷するな。イスラエルの空港で行き先がバレるとまずいから」と書いてあった。 曇天を眺めながらバスに大人しく座っていると、なぜか前の席の婆さんが僕に向かって何かを喚きだした。恐らくヘブライ語だろう、何を言ってるのかは分からないが、バスで喚き出す婆さんにろくな婆さんはいない。気にせず無視をしていたら、婆さんは僕に掴みかかってきた。僕はショックで思わず違う駅