筆者がまだ新人記者だったころ、あるデスク(副編集長)が満面の笑みで近づいてくることがよくあった。そのデスクは、朝はいつも不機嫌そうな顔をしていたし、仕事に厳しく怖い印象もある人だった。でも、こういうときは別人かと思うくらいにこにことして、全身から幸せオーラを振りまきながら近づいてくる。 デスクの笑顔とは対照的に、私はいやな予感がして顔がこわばる。こういうときはたいてい、デスクが“無茶振り”をしてくるからだ。 「来週締め切りの3ページの記事、書いてもらうことになったから。よろしくね!」とさわやかに言う。「えっ、その件は取材が入りそうにないし、あの技術はよくわからないんです……」といった言い訳をぼそぼそと始めると、これ以上笑えないんじゃないかというくらいにこにこして「中川なら、できるよ!」と言う。まさに問答無用である。 実はこのデスクは、厳しいけれど面倒見もよい。普段からいろいろと教えてもらっ