忘れたころに電話がかかってくるのはいつものことだ。最近どうと訊かれるのもいつものことだ。だから私もいつものように近況を報告する。私が先に話し、彼があとに話す。電話はいつも彼からであり、私はそれが取れなかったときは必ず折りかえす。 いつのまにかできた長電話の慣習を、私たちは律儀に守る。友情においては不確定性を減少させる努力が重要だ。突発的なできごとを排除し互いに楽をさせる。二者関係の領域を暗黙のうちに注意深く定めそれを決して侵犯しない。私たちはその種のふるまいを親切あるいは礼節と呼ぶ。 ひとしきり近ごろの仕事について話してから、でもそういうのあんまり興味ないよねと私は言う。だってお金にならないもの。そんなことないと彼はこたえる。金には魔力があるから俺はその流れにいつも興味を持っててそういう仕事をしてるけど、でも、金にならないのに成されるものごとには別種の魔法が働いてるわけだから、興味あるよ、