東京藝術大学大学美術館准教授 古田 亮 明治の文豪、夏目漱石と言えば『坊っちゃん』や『心』といった小説がよく知られています。今年は、『心』の刊行からちょうど100年を迎えますが、漱石文学は世代を超えて読み継がれ、色あせるどころか益々多様な読み方がなされているように思われます。興味深いことに、漱石文学には古今東西の美術作品、画家、彫刻家たちが登場します。漱石と美術との関係は意外に深く、また複雑ですが、文学における絵画イメージの役割を考えるうえで、漱石文学ほど魅力的なものはほかにありません。 東京に出てきた大学生小川三四郎は、美禰子という女性に出会い、魅了されていきます。漱石は、美禰子の容姿を伝えるにあたって、フランスの画家ジャン=バティスト・グルーズの描く少女のように「ヴォラプチュアス」である、つまり官能的であると表現しました。 【グルーズ 少女】 日本ではさほど有名ではないこの画家の作