都市のまなざしと、デモクラシーの果てにある「個」。拡大しながら刻一刻と廃墟へむかう1960年代の東京で、作家は何を語ったのか。満洲の経験を呼びおこし、時代の熱気とともに充… 安部公房の都市 [著]苅部直 『安部公房の都市』。サブタイトルはない。帯には「人気政治学者が読み解く」とある。少しでも安部作品の評論を読んだことがある人なら、手に取るのをためらうかもしれない。安部作品における都市の問題は、すでにいくつもの論があるからだ。いまさら、何か新しい発見があるのか? 著者が安部作品と出会ったのは、小学生の頃、『人間そっくり』か『第四間氷期』のどちらかをSFとして読んだのが最初だという。これは私も同じ体験を有している。安部が満州からの引き揚げ者であることも、共産党員だったことも知らず、無邪気に安部と邂逅(かいこう)してしまうのは、60年代生まれの特徴であろう。高度経済成長のただ中、変貌(へんぼう)