何よりも重要な条件として挙げられるのは、これらの産業が地域社会に深く組み込まれていたことにあるのではないかと私は思っている。 神戸大学大学院経営学研究科教授 加護野忠男=文 不況に泣く地方都市が多いなかで、この人口8万人の町は元気いっぱいだ。地勢的条件の重要性とともに、地域社会との緊密な関わりが質の高い産業を育てた、と筆者は説く。 3つもの産業が小さな町で発展した 兵庫県の西部、播磨地方の山沿いの「たつの市」という小さな町を10年ぶりに訪問した。その商工会議所の新春講演会に講師として招かれたからである。10年前に訪ねたときは、大病で長期入院をした直後だった。入院中に司馬遼太郎の『街道をゆく』を読んで町を見たくなったからである。そのときの訪問で、この小さな町に全国規模の産業が3つもあることを知った。たつの市の現在の人口は8万人強である。数年前に周辺の町と合併する前は人口5万人にも満たない小