8月に原智広氏の訳によるジャック・ヴァシェの『戦時の手紙』が刊行され、これに私は推薦文を寄せた。刊行から2か月を経たところで本書を推薦した者としてここで少しばかり私の見解を述べさせて頂きたい。本書の訳文は破格どころではなく、この訳が極めて特異であることは原書と対照すればたちどころに了解されることである。訳者の「創作」の部分がふんだんに織り込まれていたのは軽い驚きであったが、それを越えて巻末に付された訳者による「死後の自伝」は異様な魅力を放っていると私は感じた。これは訳本と言えるのか。確かに、私もまた外国文学を翻訳する者の端くれであり、私と原智広氏の翻訳のやり方は全く違うが、それでも現実の問題として翻訳者が百人いれば、百通りの翻訳があるのだと私が考えているのもまた本当である。もし「表現」のレベルにおいて、自分でやったわけではない人の「誤訳」を徹底的に指摘するようなことをすれば、失礼ながら、我