観光やビジネスで、沖縄を訪れた人の数は少なくないだろう。自然と触れ合えるビーチリゾート、祭りの熱気、神話的なパワースポット--沖縄は「ここではないどこか」を求める旅行者のエキゾチズムを満足させてくれる、完璧な楽園だ。 いしかわじゅん『ファイアーキング・カフェ』には沖縄と聞いて誰もがイメージするであろう、ビーチリゾートも米軍基地も出てこない。そこに登場するのは、本土(日本のほかの都道府県)から那覇にやって来た、元丸の内OL、キャバクラの客引き、借金がかさんだ出版社社長、レズビアンの恋人たちなどのよそ者ばかりだ。 南の島のハッピーな物語を期待して読むと、肩透かしをくらうに違いない。代わりにそこにあるのは、「どこか」が「ここ」になったときに知る、楽園の日常とその息苦しさ。05年に那覇に仕事場を借り、ゴールデンウイークと8月をのぞく毎月の一週間をそこで過ごした時間から生まれた、リアルな那覇の姿がそ