1951年、サリンジャーは長篇『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を刊行した。 53年には短篇集『ナイン・ストーリーズ』を、61年には中篇集『フラニーとズーイ』を刊行した。 『ナイン・ストーリーズ』に収録された短篇の大半は、実は『キャッチャー』以前に雑誌掲載されているのだが、こうして出版順に並べてみるのは、ある点を考える上で都合がいい。すなわち、サリンジャーにおける、少女/若い女性の「成長」を考える上で。 『キャッチャー』では、10歳の無垢な妹フィービーが、インチキだらけの大人の世界に入っていこうとしている10代なかばの兄ホールデンを、(少なくともつかのま)癒す。 『ナイン・ストーリーズ』のなかの、「バナナフィッシュ日和」と並んでもっとも有名な短篇「エズメに──愛と悲惨をこめて」では、いい感じに自意識過剰な「十三歳くらいの」少女エズメが、20代なかばの駆け出し作家が戦争で被った心の傷を、(少な