港町にある小さなバー。建物の外の小さな階段を上り、扉を開く。カウンターの中には、蝶(ちょう)ネクタイにベスト、いつもと変わらぬマスターの姿。常連客だけでない。元気のない後輩を連れてきた会社員、夫に先立たれた老婦人、転機を迎えたカップル。客の話に耳を傾けた後、マスターが世界中の酒の中からとっておきの一杯を選んでくれる……。 漫画「BARレモン・ハート」の第1巻が出版されたのは1986年。酒や料理の魅力を伝える漫画の先駆けだ。毎回、それぞれの客の人生に、酒の歴史や魅力を織り交ぜ、バーテンダーのバイブルともいわれる。登場するのはシングル・モルトやブレンドのウイスキーから、ブランデー、ワイン、日本酒、焼酎、ビールまで。この夜、今も連載を続ける漫画家の古谷三敏(76)に登場をお願いした。 密造酒 話を聞いたのは、あの漫画と同じ名前の店。現実世界の「BARレモンハート」は西武池袋線・大泉学園駅(東京都