今月13日、一人の棋士が最後の対局を終えた。規定により引退が確定していた中尾敏之五段(43)が第31期竜王戦6組で星野良生四段(30)に敗れ、20年間に及ぶ現役生活に終止符を打った。引退回避を目指し、2月には戦後最長手数となる420手の名勝負を演じるなどファンの記憶に残る執念を見せた男は、何を思って戦い、今後をどう生きるのか。静岡県富士市の自宅で現在の思いと夢を聞いた。 燃え尽きた者の晴れやかな表情だった。引退について語る中尾は笑顔だった。 「悔いはないです。引退が決まってからの2局は、強い人と全力で将棋を指すことが本当に楽しくて。まだ小さくて、初心者だった頃のような純粋な気持ちでした」 死力を尽くして戦ったからこそ、視線は前を向いている。 生存への執念が生むドラマがファンの胸を打った。1998年のデビューから通年度で18年連続負け越しの男は、引退規定の該当年となった2017年度、驚異の進