ジェスミン・ウォードが現代アメリカ文学を代表する1人であることを否定する人はまずいないだろう。『骨を引き上げろ』(2011)と『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』(2017)で全米図書賞を2度受賞。これまで同賞を複数回受賞した作家は全員「白人男性」であり、「非白人」としても「女性」としても初の複数回受賞作家となったのがウォードなのである。日本では、まず『歌え〜』から出版順を遡る形で『骨を〜』、2008年のデビュー作『線が血を流すところ』まで邦訳された(いずれも作品社で、訳者は石川由美子)。 さて、そんなジェスミン・ウォードが『歌え〜』以来の長編Let Us Descend を2023年に発表した。ウォードはデビューから一貫して架空の現代の街ボア・ソバージュを舞台に書いてきたが、今作の舞台は奴隷制が残る時代、カロライナの農場だ。 全300頁だがフォントは大きめなので、邦訳されたら前2作よりは短く