10連休のリレーエッセイ企画「忘れ得ぬあの人の言葉」。かつて好きだった人から受け取った、忘れられない言葉の想い出を振り返ります。今宵は、自分のやりたいことに向かって突き進むさなか、当時夫だった人から言われた言葉。ライター・編集者 伊佐知美さんの寄稿です。 ■二子玉川の夜、「夫」だった「あなた」のひとこと 「劣等感を、感じるんだよね」 3年前。もうすぐ夏が終わりそうな、生暖かい風と涼しい空気が混じった、夜になりかけの夕焼け。 二子玉川ライズショッピングセンターの二階のテラス。人工芝が、狭く、けれど美しく並んだ散歩道の途中、端っこの手すりに体重を預けてしまおうと傾きかけた私に、少し距離を置いて「あなた」は言った。 「劣等感、を」。と私は小さな声で繰り返す。それなりに名の知れた大きな企業で働く彼。この夜も、いつもと同じように、質のよい濃いグレーのストライプのスーツに身を包み、「僕は安定した仕事に