コーマック・マッカーシー『すべての美しい馬』は、あまりに好きすぎて書評できない。そのため、以下の文章はわたしのノロケになる。 20年前に一目ぼれして以来、くり返し読んできた。好きなシーン(野生馬の調教、刑務所でのナイフ死闘)を擦り切れるまでめくったり、ふと開いた頁のセリフに啓示を探したり、リアルがキツいと感じたときのアジール(逃げ場)としたり、様々な読み方をしてきた。 10年前に文庫になったのを読み、読書会を機に先週また読み、いまKindleで原著に取り組んでいる。たぶんこれ、人生かけてくり返す傑作になるだろう。そしてこれ、読み返すたびに美しさを再発見し、苛烈さに震え慄き、運命に落涙する傑作となるに違いない。 時代錯誤のカウボーイ 舞台は1949年のテキサス、主人公はジョン・グレイディ・コール。祖父の牧場で生まれてから16年、カウボーイとして生きてきた。 冒頭は祖父の葬儀から始まる。そして