数年前から、ずっと妄想してきたことがある。いま、核を扱う物語とはどのようになるのだろうか、と。核爆発によってニューヨークが、ロサンゼルスが壊滅し、ウン10万、ウン100万の人が死ぬ。それを防ぐために主人公たちが駆け回り、テロリストは政治的目標やあるいは個人的な復讐のために核による虐殺を完遂しようとする。それで物語は収まるものだろうか。 冷戦が終わってからこのかた、ハリウッド映画で核爆発を何回見ただろうか。ジェームズ・キャメロンはいうまでもなく冷戦の子供としての物語を一貫して作りつづけてきた監督だ。ターミネーターは核戦争後からやってくる。エイリアン2で主人公たちにタイムリミットを切るのは核融合炉の臨界時間だ。アビスは核弾頭をめぐる物語であり、完全版によってその背景で「第二のキューバ危機」が進行していることがわかる。キャメロンは核と、それが象徴する冷戦的な巨大科学の破綻を一貫して描いてきた。