*1 映画「海炭市叙景」、その舞台である海炭市から西に40キロ、私はそこで生まれ育ったはずである。原作の文庫の解説にて、川本三郎は「この小説を読むと誰もが自分の住んでいる町と、そこで働きながら生きている人々のことを愛おしくなるではないか。」と書く。架空の町に自らの暮らしをそこに見つけ出せる…ということだろう。しかし私に限ればそんなことはない。海炭市はいささか大き過ぎる。原作者の故郷・函館市がモデルであり、ロケ地であるから仕方がないのかもしれないけれども、そこは私の生まれ育った本州の西端のどこよりも大きい。 プラザ合意による円高不況のあおりでコンビナートの一郭の工場が閉鎖されると、そこの家庭の子供がごっそりと消えた。麻雀や飲酒くらいしか愉しみのない高校生活を過ごしたのだが、あのままその地で暮らしていたならば、それにパチンコくらいしかくわわるものがなかったに違いない。そのような薄い絶望が約束さ