「丸に三つ葉葵」の紋といえば、260年余続いた徳川将軍家のしるし。その栄華を遙かにしのぐのが、「双頭の鷲」を紋章にしたハプスブルク家だ。中世から20世紀初頭まで、650年もの長きに渡り君臨した、ヨーロッパ随一の王家。自らを「高貴な青い血」の一族と見なし、血族結婚を繰り返した。 ハプスブルク家にまつわる本は、一族の栄枯盛衰を追ったもの、マリー・アントワネットやエリザベート皇后など当家の著名人たちにスポットを当てたものなど、数多く出版されている。だが、本書のように、ハプスブルク家の血を引く者たちをモデルにした「名画」から、そのドラマティックな血脈を読み解こうとした試みは初めてだろう。 ちなみに、著者は美術評論の専門家ではなく、大学でドイツ語や西洋文化史を教える学者。著名な西洋名画の背景にあるぞくりとするエピソードを紹介しながら、絵画の新しい見方を提示していく美術エッセイ『怖い絵』シリーズがヒッ