大塚英志がサントリー学芸賞を受賞したという報を耳にした。しかも、こともあろうに漫画をめぐる仕事で、だ。 このような賞にまつわるあれこれを外野がガタガタ言うのは、どんな正当な理由があっても、見てくれとしてみっともいいものにはならない。ならないが、しかしここはそんな悠長なことを言っていられない。ことは“漫画を論じる”水準に関わるからだ。 漫画を論じた仕事は、今年は決して不作ではなかった。まず、四方田犬彦の労作があった。中野晴行の一連の仕事が結実し始めてもいる。あるいは、呉智英や夏目房之介が継続している作業にしても、これだけサブカルチュアを論じることが困難になっている状況できちんと“漫画を論じる”ための地平をまさに知的作法の誠実さによって切り開こうと志すものだ。それら同時代の仕事と比べて、受賞作とされた大塚の『戦後まんがの表現空間』が「学芸」として優れているとは、どう斟酌しても思えない。百歩譲っ