「初夏ものがたり」の初出は、1980年発行の集英社コバルト文庫『オットーと魔術師』。短編集の中に書き下ろしとして収録された。作者25歳のこと。同じ年に徳間書店より長編『仮面物語 或は鏡の王国の記』が出たあとのことで、78年の初出版『夢の棲む街』(ハヤカワ文庫)から数えてこれが3冊目。そもそもこの『夢の棲む街』を読んで下さった「小説ジュニア」の若い女性編集さんが声をかけて下さり、可愛らしい短編「オットーと魔術師」「チョコレート人形」などぽつぽつ書いて渡していたのだが、残念ながらご病気により担当降板。交代した男の編集さんから「200枚書き足して文庫を出しましょう」と連絡があり、すぐさま応じて書き下ろしたのがこの「初夏ものがたり」ということになる。ーー国書刊行会から昨年復刊された『仮面物語』の後記にも書いたことだけれど、この時期、若かった私は早書きとささやかな量産体制にあったのだ。〈寡作〉な現在