2017年8月、韓国で一本の映画が封切られた。公開初週の観客動員数は436万、韓国映画歴代3位の大ヒットだった。『タクシー運転手 約束は海を越えて』という作品である。1980年の「光州事件」を描いた映画で、日本でもロングヒットを続けている。 光州事件は、日本ではそれほど馴染みがない出来事かもしれない。 1979年10月に朴正熙大統領が暗殺され、18年余に及んだ軍事独裁政権が終焉すると、韓国ではそれまで抑圧されてきた民主化への気運が蠢動し始める。 その熱気は、80年春、新学期を迎えた大学街で一気に沸騰する。いわゆる「ソウルの春」である。ことに韓国南西部の都市・光州での動きは活発だった。5月17日、全斗煥(チョン・ドゥファン)が率いる新軍部が非常戒厳令を全国に布告すると、一夜明けた光州では学生たちが休校令を破って民主化要求のデモを続行した。