奈良と言えば、鹿。奈良公園には1200~1300頭の鹿がたむろしており、観光客を楽しませている。野生動物と言いながら、人が近寄っても平気どころか触ってもたいして嫌がらない。鹿せんべいを差し出せばお辞儀をして食べる。とくに外国人客には絶大な人気で、みんな鹿せんべい片手に鹿と一緒に写真に収まろうと悪戦苦闘、スマホを掲げて手を伸ばす。 なかには、食べすぎて満腹なのか、差し出される鹿せんべいにそっぽを向く鹿だっている。 そんな奈良の鹿(以後、ナラシカと表記)を見ていると、山奥で生きる鹿と比べて食べ物に困らないでいいなあ、と想像してしまう。だが、反対だった。ナラシカは、慢性的に栄養失調状態なのだ。 私は、全国的に鹿による獣害問題が深刻化する中で、保護されているナラシカの姿に、野生動物と人が共生するヒントを見つけられないかと考えて取材を進めた。そしてこのほど『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』