注文の少ない料理店に入るのには、少しばかりの勇気がいる。 人生には、一線を越える決断が必要になるときがあるものだが、必要なのが分かっていても、その決断ができないときもある。 進むべきか、退くべきか、合理的に推し量っての完璧な決断など、できるわけがないと分かってはいる。けれども、その一線を越えていくという道を選ばざるをえないときに、人は勇気だけを頼りに見えない未来への一歩を踏み出すことになる。 注文の少ない料理店が、客に勇気を要請するのは、店主にも客にもある種の覚悟というものがなければ、そういう店自体がそもそも存在しえないからだ。 注文の少ない店だって? どうしてそんな店にわざわざ入るのさ。ひと目見ただけで、ああ、これは流行ってないなって分かるのに、よりによってそういう店に入るなんて、相当の変わりもんでしょう、そんなことをわざわざするのは。 つまりあなたは、不思議なことにこの料理店の店主とな