トリックスターとは、あるコミュニティにおいて、「中⼼」的な地点が弱体化した際に、それを盛り上げるものとして登場する「周縁⼈」のことである(⼭⼝昌男「⽂化と両義性」)。中⼼と周縁の関係は常に両義的で、周縁という他者がいることによって、⾃⼰としての中⼼が確⽴する。⼀⽅で「異⼈」としての周縁⼈もまた、中⼼が存在しなければ「異⼈」たりうることはない。浅⽥彰は、この意味で正しく「トリックスター」であった。 周知のことだが「トリックスター」を定義した山口昌男は思想的に新左翼のイデオローグであった津村喬と似た立場に立っていた存在である。山口昌男の思想的なバックボーンを見たとき、そこにあるのは林達夫の精神史的なモチーフから遡行して作り出される新左翼の文化闘争である。その山口に影響を受けたバブル期のトリックスター=文化英雄というべき浅田彰もまた、かかる左翼の思想史を前提にした存在であると考えるべきであろう。