グリーンランドのカーナークで、氷山から海の状態を吟味するイヌイットのハンター。北極の氷の形状の変化は、最終的に、海洋生物だけでなく海氷に頼って暮らす人々にも影響をもたらす。(PHOTOGRAPH BY PAUL NICKLEN, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 1895年4月、有名なノルウェー人探検家、フリチョフ・ナンセンは、北極の氷原を犬ぞりで進み北極点を目指したが、果てしなく連なる氷脈に行く手を阻まれた。「どこまでも続く氷塊は、まさにカオスだった」。ナンセンは、探検記『極北:フラム号北極漂流記』にこう記している。そりを引いてこの氷脈を越えるのは「どんな巨人でもへとへとになるほどの苦行」だった。 だが、2023年3月15日付けで学術誌「ネイチャー」に掲載された論文によれば、ナンセンの行く手に立ちはだかった険しい氷脈の大部分が、いまでは過去の存在になっているという。尾根