私たちが日々目にするものや触れるものを、科学の存在抜きに語ることは、ほとんど不可能だと言っていいでしょう。インターネットやスマートフォンはもとより、車や飛行機といった交通手段、病院をはじめとする医療施設、映画館や遊園地といった余暇を過ごす場所など、その成果はすみずみにまで行き渡っています。科学が人びとの暮らしを便利に、ある意味で「豊か」にしたことは間違いありません。一方でその陰には、失われてしまったもの、損なわれてしまった価値があることもまた、確かなことのように思えます。現代の社会を基礎づけている近代科学の功罪を、科学史家・科学哲学者の村上陽一郎先生にお聞きしました。 ――ご著書(『日本近代科学史』筑摩書房)の中で、日本は鉄砲の伝来以来、科学技術の技術ばかりを採り入れたため、科学的な姿勢の方はなかなか根付かなかったといったことを書かれていますが、明治期の日本に入ってきた科学というのはどのよ