「やっぱり庶民を書くしかないですよ。どぶ板をはいつくばって生きる人間じゃないと見えないものってあると思いますから」 小説家・宮本輝さん(71)は、インタビューの最後に、静かに確信に満ちた口調でそう語った。 『泥の河』や『螢川』、『錦繍』、『青が散る』などの小説で知られる、日本屈指のストーリーテラー。 その宮本さんが実に37年もの歳月をかけて書き続けてきた『流転の海』シリーズが、10月末に刊行された最終巻で完結を迎えた。 描いたのは、戦後の復興から高度経済成長へと進む、日本の激動の20年。その時代に生きた“無名の人々”の営みを、宮本さん自身の家族をモデルに描く、自伝的大河小説だ。 半生をかけた大作を書き終えた小説家が語ることとは。その思いにインタビューで迫った。 執筆37年ですから、書き終える瞬間はきっと手が震えて、キーボードも打てなくなると思っていたんです。でも、最後の5行を書いて、丸を打