リチャード・パワーズ新刊。ナチスの迫害を逃れて、ドイツからアメリカにやってきたユダヤ人男性が、黒人女性と結婚し、天才クラシック歌手となる息子が誕生する。上下巻を通して千ページ以上、読了に数十時間はかかる大長編でしたが、読み終えてようやく、日本に住んでいては実感できない人種問題について、それは具体的にどういうことなのか、その端緒がつかめたような気がした。資料や客観的な記述だけでは実感できない、人種問題の根底にある歴史のうねりを、皮膚感覚として捉えることができたのは、やはり物語の力ではないかとおもう。 たとえば、黒人を「ブラック」と呼ぶことについて。わたしは昔から、彼らをずっとそう呼んできたのだとおもっていた。しかし、この小説を読んで知ったのは、黒人をブラックと呼ぶ習慣はここ最近、ほんの数十年のものだったということだ。わたしは、そんな基本的なことすらも知らなかった。「『黒』(ブラック)は最近の