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ブックマーク / honz.jp (24)

  • 忘れ去られしカオスな物語群にどっぷり浸かる『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』 - HONZ

    忘れ去られしカオスな物語群にどっぷり浸かる『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する』 もうタイトルからして「なんじゃこりゃ」だが、読み終わっても「なんじゃこりゃ」である。でも面白いんだから書評するより仕方ない。書(通称・まいボコ)を一言で説明するならば、明治時代、夏目漱石や森鴎外といった純文学作家の作品よりも人気を博した忘れ去られしエンタメ作品(著者は「明治娯楽物語」と呼ぶ)が多数存在し、それらをツッコミ入れつつざっくばらんに紹介しまくるだ。なぜ現在この作品群の知名度が全くないかというと、当時はまだ文学が未成熟、手探り状態にあり、現代の水準からすればどれもこれも「小説未満」で、時代の流れの中で風化してしまったためだ。要するに今読んでもつまらないのである。 とはいえ、どんなに粗雑でくだらなくても、そこには作

    忘れ去られしカオスな物語群にどっぷり浸かる『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』 - HONZ
  • え?日本語ってこんなに前のめりな言葉やったんか! 『会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか』 - HONZ

    え?日語ってこんなに前のめりな言葉やったんか! 『会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか』 言語がどのように生まれたかに興味を持つ人は多いのではないか。なによりも人間を人間たらしめている大きな理由のひとつは言語なのだから、当然のことだろう。すこし前に書評を書いた『言語はこうして生まれる:「即興する脳」とジェスチャーゲーム』は、そのあたりを論じたである。 周囲の人に何かを伝えるために言語が生まれた。最初から単語、ましてや文法があった訳ではない。まずはジェスチャーゲームのようなものから言語の体系が生まれてきたのではないかというのが、『言語はこうして生まれる』の内容だ。すべての言語に共通する「普遍文法」を理解する能力が遺伝的に備わっているという、あのチョムスキーの「生成文法」理論に真っ向から刃向かう考えで、たいそう面白かった。 言語の「自然発生」を考えれば、この説の方が正しそうで

    え?日本語ってこんなに前のめりな言葉やったんか! 『会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか』 - HONZ
  • 『犯罪は予測できる』 防犯ブザーは役立たず - HONZ

    書店でタイトルを眺めつつ、犯罪の予測といえば、フィリップ・K・ディックの「少数報告」だよな、などと思いながら手に取ると、まえがき1ページ目でそのことに触れており、一気に著者に対する親近感が増してそのまま購入してしまった。 もちろん、書には予知能力者のプレコグたちを使った犯罪予知法が書かれているわけではない。著者は、日人として初めて英ケンブリッジ大学で犯罪機会論を学び、帰国後は「地域安全マップ」を提唱した人物だ。その文章は明晰で論理的、そのうえリズムがあって心地よく読め、著者の頭の良さがよくわかる。 地域安全マップ作りは、地域の人々が実際に町を歩いて犯罪が起こりそうな場所をマッピングしてゆくことだ。著者が定義する犯罪が起こりやすい場所とは「入りやすく、見えにくい場所」。実にシンプルだが、書を読めば読むほど非常に腑に落ちる定義である。自分の住む町を歩き、「入りやすく、見えにくい場所」を探

    『犯罪は予測できる』 防犯ブザーは役立たず - HONZ
  • うつ病やアルツハイマー病もそれと関係しているのか 『脳のなかの天使と刺客──心の健康を支配する免疫細胞』 - HONZ

    それは脳のなかの「天使」でありながら、ときには「刺客」へと変貌するという。書の主人公は、非神経細胞のひとつである「ミクログリア」である。 つい最近まで、ミクログリアは脳のなかの端役にすぎないと考えられていた。脳内の情報伝達を担うニューロンや、そのつなぎ役を務めるシナプスといった綺羅星たちと比べると、それが果たす役割はごく些末なものだと考えられていたのである。ところが近年、そうした見方は大きく変わりつつある。ミクログリアは脳のなかできわめて重要な役割を果たすとともに、それが誤作動を起こすと、わたしたちの健康に甚大な被害が生じることがわかってきたのだ。後者の例を言えば、うつ病や不安障害、あるいはアルツハイマー病なども、ミクログリアの誤作動と関係しているという。 書は、ミクログリアが脚光を浴びるに至った経緯と現状を物語るものである。そしてそのストーリーは、ふたつの糸が撚り合わさった形で進行す

    うつ病やアルツハイマー病もそれと関係しているのか 『脳のなかの天使と刺客──心の健康を支配する免疫細胞』 - HONZ
  • 『差別はたいてい悪意のない人がする』特権という厄介で見えにくいことを考える - HONZ

    差別はつねに、差別によって不利益をこうむる側の話である。差別のおかげで知らぬうちにメリットを得る側の人が、自ら立ち上がって差別を語ることはしない。ただ、よーく考えれば、差別される側になる可能性があるのであれば、差別する側になることだってあるはずということに気がつける。 「もうすっかり日人ですね」 「希望を持ってください」 この2つの声がけは一見褒めていたり、励ましていたりする言葉のように見える。だが、前者は国外から日移住した人たちに、後者は障害者に対する代表的な侮辱表現の例としてあげられる。このように日常の会話の中に、悪意のない差別が潜んでいる。 特定の言葉を口にしないよう、注意すればいい。それだけではすまない。このような言葉がなぜ侮辱することにあたるのかを理解しなければならないのだ。実はその方法はそこまで難しくない。当事者に聞いてみることだ。 著者は、移民,セクシュアル・マイノリテ

    『差別はたいてい悪意のない人がする』特権という厄介で見えにくいことを考える - HONZ
  • 『ファシズムの教室 なぜ集団は暴走するのか』日常に潜む小さなファシズム - HONZ

    数年前のこと、ツイッターで奇妙な動画を見た。揃って白いシャツにジーンズを身につけた大勢の若者たちが、「リア充爆発しろっ!」と大声で叫んでいる動画だ。声を揃え息を合わせ、大声で唱和している。「なんだこりゃ?」。 どれどれと検索してみると、ある大学で行われている「ファシズムの体験学習」だという。どうやらその動画は、周りで見物していた学生が撮ったものらしいが… 甲南大学文学部の田野大輔教授のファシズム体験学習である。 田野教授が「田野総統」、学生たちは「田野帝国の国民」となって行なわれるロールプレイングを通して、人々がファシズムを受け入れるときどのような感情の動きがあるのかを体験させ、いわば「ファシズムに対するワクチン」となるような気づきを得ることを目的としている。 体験学習は2回にわたって行う。大教室に集まった250人で行う大規模ロールプレイだ。1回目。「独裁」を体験するのだからなんといっても

    『ファシズムの教室 なぜ集団は暴走するのか』日常に潜む小さなファシズム - HONZ
  • 『ハウ・トゥー バカバカしくて役に立たない暮らしの科学』 - HONZ

    突拍子もない質問に科学で答える『ホワット・イフ?』、科学絵『ホワット・イズ・ディス?』(ともに早川書房刊)に続く、元NASAエンジニアの人気ウェブ漫画家、ランドール・マンローの新しい、『ハウ・トゥー』が登場した。『ハウ・トゥー』は、「川を渡る」、「ピアノを弾く」、「スマホを充電する」、など、一見日常的な課題を解決するために、あえて「とんでもない」方法を科学を使って探っていく。たとえば、川を渡る場合。「歩いて渡る」や「跳び越える」にはじまり、「川の表面を凍らせる」から、ついには「川を沸騰させて干上がらせる」に至る。そんなことは実際にはできません。書は、何かを最も効率的に行なう方法を教える実用書ではないのだ。 熱力学の第2法則を説明するのに、川を凍結する話をする必要はない。しかし、この法則のおかげで、川を凍結するには、川の流れほどのガソリンで製氷装置を稼働しなければならないとわかれば、仰

    『ハウ・トゥー バカバカしくて役に立たない暮らしの科学』 - HONZ
  • 動物を愛し性を意識する人々 『聖なるズー』 - HONZ

    今年度の開高健ノンフィクション賞を受賞した傑作だ。京都大学大学院で「文化人類学におけるセクシュアリティ研究」に取り組む女性が、単身ドイツに渡り、複数の動物性愛者(ズー)の家を泊まり歩いて丹念に取材している。最初私は「動物性愛」ときいて腰が引けたが、興味が打ち勝って書を開いた。すると、こんな書き出しが待っていた。 私には愛がわからない。 ひと口に愛といっても、いろいろなかたちがあるだろう。 この書き出しに続いて、長年受けてきた性暴力についての著者の自分語りが始まる。それは、動物性愛研究の動機でもあり、また、著者がズーの質に迫ることができた理由でもある。書には欠かせない告白だ。このプロローグを読めば、異種間の性に対する興味位のではないことがわかり、私は思わず引きこまれてしまった。 異種間の性といっても、獣姦と動物性愛が似て非なるものであることを、最初に断っておかなければならない。とき

    動物を愛し性を意識する人々 『聖なるズー』 - HONZ
  • 『ミヤザキワールド 宮崎駿の闇と光』 - HONZ

    書は、海外における日アニメ研究の第一人者による「宮崎駿論」決定版とも言うべき一冊である(原書はMiyazakiworld: A Life in Art, Yale University Press, 2018)。通読してまず実感するのは、著者スーザン・ネイピアの「ミヤザキワールド」に対する並々ならぬ愛情の深さだ。自身も優れたストーリーテラーであるネイピアの語り口は優しく滑らかで、宮崎の人生や時代背景が創作過程にどのような影響を与えたのかを、難解な専門用語に頼ることなく紐解いていく。ネイピアは、宮崎の作品世界を読み解くために、監督に関する膨大な日語の(そして日に日にボリュームを増す英語の)文献や資料を渉猟しただけでなく、作品にインスピレーションを与えた自然や場所にも自ら足を運んで観察している。 現在、タフツ大学で修辞学教授を務めるネイピアは、これまで日文学とファンタジーやアニメに関す

    『ミヤザキワールド 宮崎駿の闇と光』 - HONZ
  • 『愛という名の支配』わたしたちを幸せにするフェミニズム - HONZ

    田嶋陽子さんは、討論バラエティ『ビートたけしのTVタックル』への出演で高い知名度を得た、日を代表するフェミニストだ。時は1990年代、平成がはじまったばかりのころ。フェミニストがどういう人なのか、フェミニズムがなんなのかまったく知らなかった当時のわたしも、この番組でのやりとりを面白おかしく見ているうちに、「フェミニスト=田嶋陽子」と同義語のようにすり込まれていった。そしてそのイメージは、世間一般にも深く浸透した。 なにしろキャッチーな存在だったのだ。おかっぱヘアにメガネの組み合わせ、低く落ち着いた声できっぱりと物申し、相手があのビートたけしでも一歩も引かない。議論に熱くなっているときの険しい表情と同じくらい、「ガハハ」という擬音語がしっくりくるビッグスマイルも印象的だ。誰とも似ていない強いキャラクターは、テレビが絶大な影響力を持っていた時代、圧倒的な拡散力でもって日中に広まった。その人

    『愛という名の支配』わたしたちを幸せにするフェミニズム - HONZ
  • 『「うつ」は炎症で起きる』 「それは体の問題」という新たな視点 - HONZ

    若い医師はあるとき、リウマチ性関節炎と診断されていた女性患者がうつ病をも患っていることに気づいた。そのささやかな発見に気をよくした彼は、上機嫌で先輩医師にその旨を伝える。だが、先輩医師から返ってきた反応はきわめて淡白なものであった。「うつ病? そりゃ、君だってそうなるだろうよ」。 以上は、書の著者エドワード・ブルモアが内科の研修医時代に実際に経験したことである。そしてそのエピソードは、うつ病がこれまでどのように扱われてきたのかをよく物語っている。それはすなわち、「うつ病のような精神疾患はすべて心の問題だ」という扱われ方である。「そりゃ、君だって関節炎のことで悩むだろうし、そうしたらうつ病にでもなるだろうよ」というわけだ。 しかし、著者はいまやまったく別様に事態を見ている。その見方は、かつては自分でも「いかれている」と思えたようなものだ。著者曰く、先の女性患者は「リウマチ性疾患のことを思い

    『「うつ」は炎症で起きる』 「それは体の問題」という新たな視点 - HONZ
  • 『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』その何気ない行動が、ゾウの生死を分ける - HONZ

    アフリカでゾウの密猟が急増していると聞かされても、多くの人にとって自分事として捉えることが難しいだろう。しかしゾウが殺されているのは、決して糧としての肉を目的としたものなどではない。付属物にすぎないはずの象牙が1kgあたり2000ドルで闇取引され、遠く中国や日にやってくるのだ。 サバンナのダイヤモンドとも言われる象牙。書は、元アフリカ特派員の著者がアフリカ南部における象牙マーケットの全貌を描き出し、取引された象牙の行く末と私達の生活を結びつけた衝撃のノンフィクションである。 事態は深刻だ。アフリカでは、1940年代に約500万頭いたとされているアフリカゾウが、2010年代にはすでに約1割の50万頭にまで激減しており、このままのペースで密猟が続けば、野生のゾウはわずか10数年で絶滅してしまうかもしれないと言われている。 また、虐殺時の模様も凄惨極まりない。密猟者たちは銃弾を撃ち込んで動

    『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』その何気ない行動が、ゾウの生死を分ける - HONZ
  • 【連載】『全国マン・チン分布考』第1回:京都の若い女性からの切実な願い - HONZ

    京都の若い女性からの切実な願い 1995年5月初旬のことです。ユニークな内容が書かれた一通の手書きの依頼文が、『探偵!ナイトスクープ』に寄せられました。そのころはまだパソコンが普及していませんでしたから、依頼は必ず、はがきか手紙で寄せられました。 手紙をくれたのは、京都市内に住む24歳の女子学生でした。地元京都で学生になる前に、東京で働いていた時期があったようです。この依頼はまさにこののテーマ、なんと「女陰」の名称の全国方言分布図を作成してほしいと求める内容だったのです。こんなお願いが、若い女性から、しかも大真面目な文章で寄せられてくるとは、夢にも思っていませんでした。 私たちに依頼文が届いたのは、1991年5月24日に「全国アホ・バカ分布図の完成」編を放送してから、ちょうど4年が経ったころでした。この放送をきっかけに、私が「アホ・バカ方言」の研究を仕事の合間に始め、『全国アホ・バカ分布

    【連載】『全国マン・チン分布考』第1回:京都の若い女性からの切実な願い - HONZ
  • 『土・牛・微生物 文明の衰退を食い止める土の話』 - HONZ

    書はデイビッド・モントゴメリー著“Growing a Revolution”の全訳であり、『土の文明史』『土と内臓』(ともに築地書館)に続く三部作の完結編である。三作はいずれも、人間社会とそれを包括する文明と環境を、「土」という共通の切り口で解読したものだ。 一作目『土の文明史』では、世界の文明の盛衰と土壌の関係を。世界中のさまざまな時代と地域を検証した著者は、土壌が文明の寿命を決定し、土を使い果たしたとき文明は滅亡するという結論に達した。現代文明においても、農業生産性を上げるために化学肥料や農薬、機械力を集中的に投入するほど、土壌は疲弊し、やがては生産に適さなくなる。しかし化学製品の投入量を抑え、土壌肥沃度を高めながら、今後の人口増加に対処して糧を増産するような方向へと転換することは可能なのだろうか。われわれの文明が滅亡を回避するための道として、土の扱いを変えることを提唱しながらも、

    『土・牛・微生物 文明の衰退を食い止める土の話』 - HONZ
    muryan_tap3
    muryan_tap3 2018/08/31
    SF短編漫画家集アフター0の窒素固定をする小麦を思い出した。土が焦点とは言い難いのでちょっと違うが…
  • 『意識の川をゆく 脳神経科医が探る「心」の起源』 - HONZ

    書は1933年生まれ、2015年に亡くなった、神経内科医オリヴァー・サックスの最後の である。サックスはイギリス人であるが、ニューヨークで医師として多くの業績を挙げ、コロンビア 大学の教授も務めた。サックスの愛読者なら、すでに彼の著作をいくつか知っているであろう。その大部分は彼自身が診 み た患者に関するエピソード的な記録である。医学的、科学的であると同時に、文学的な叙述だと言っていいかもしれない。 その意味では、書にはやや違った趣がある。全体は十章に分かれるが、いずれもある特定の医学的、生物学的な主題を論じている。第一章では、なんと植物学者としてのチャールズ・ダーウィンが描かれる。これはサックスがべつに奇を衒ったわけではない。ダーウィンは若年の時にビーグル号で航海しただけで、あとは自宅にいわば引きこもり、一切の公職に就かなかった。つまり一見地味な生涯を送った。しかしそれとは対照的に

    『意識の川をゆく 脳神経科医が探る「心」の起源』 - HONZ
  • 『酒の起源―最古のワイン、ビール、アルコール飲料を探す旅』「食」から人類の歩みを知る - HONZ

    原書のタイトルを直訳すると「過去を抜栓する」。酒と人類の壮大な物語を描いただから、いかにも香り立つようでおしゃれだ。翻訳タイトルは『酒の起源』。もちろん『種の起源』のオマージュだ。こちらも素敵。 版元の白楊社は2016年に『酒の科学』というを出版していた。こちらの原書タイトルは「プルーフ」。プルーフにはアルコール度数だけでなく、印刷前のゲラという意味もある。こちらもウィットに富んでいて楽しい。 酒をテーマに選ぶ研究者や編集者たちは、酒に酩酊効果だけではない、アートを感じ取っているからかもしれない。タイトルがおしゃれというだけでなく、文もグラスを片手にゆったりと読めるように工夫されている。書も例外ではなく、要所に図版や地図が使われていて、考古学者とともに世界を旅している気持ちになる。 『酒の起源』は中国、チグリス・ユーフラテス、中央アジア、地中海、新世界、アフリカという世界史に現れて

    『酒の起源―最古のワイン、ビール、アルコール飲料を探す旅』「食」から人類の歩みを知る - HONZ
  • 『自衛隊失格 私が「特殊部隊」を去った理由』完全燃焼を目指した男がぶつかった官僚組織という壁 - HONZ

    著者、伊藤祐靖は自衛隊初の特殊部隊である海上自衛隊の「特別警備隊」の創設に携わり、部隊創設後は先任小隊長として技術の向上に努めた人物である。書は日初の特殊部隊を創設した男の半生を綴った自伝であり、自衛隊という国防の最前線のリアルを描いたノンフィクションでもある。 そもそも日は旧帝国陸海軍の時代から特殊部隊という特殊戦の専門部隊というものを持ったことがない。そんな日がなぜ特殊部隊を創設する事になったのか。しかも、白兵戦を旨とする陸上自衛隊よりも先に海上自衛隊で。実はその発端となる事件の現場に伊藤祐靖自身がいたのである。 その事件とは1999年3月23日に発生した能登半島沖不審船事件である。イージス艦「みょうこう」は富山湾において「特定電波を発信した不審船の捜索」を命じられる。湾の中にいる何百隻という漁船の中から、北朝鮮の特定電波を発信した工作船を見つけるのである。不可能なように思われ

    『自衛隊失格 私が「特殊部隊」を去った理由』完全燃焼を目指した男がぶつかった官僚組織という壁 - HONZ
  • 『世界を変えた14の密約』 - HONZ

    「企業の密約が世界を変えた」と言えば、ありがちな陰謀説だと思われるかもしれない。しかし、書はそんな陰謀説を掲げてスキャンダルを暴露しようとするではない。むしろ、それとは正反対だ。このは、今わたしたちをとりまくこの世界が、偶然の産物ではなく、ある意図のもとになるべくして今の形になったことを、歴史的な事実と綿密な取材に基づいてひも解いていく。書を読めば、ばらばらに見えた点と点がつながり、今目の前にある世界が違う角度で見えてくる。 著者のジャックス・ペレッティは、名門ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスを卒業して調査報道の道に進み、ガーディアンやワイアードといった一流紙誌に予言的な記事を掲載してきた、今最も旬なジャーナリストのひとりである。ドキュメンタリー制作者としての実力も折り紙つきで、書をもとにしたドキュメンタリー番組もBBCで放送され、大きな反響を呼んでいる。 そんな旬の著者が

    『世界を変えた14の密約』 - HONZ
  • 「図書館の隠れたポテンシャル」を引き出す4冊 - HONZ

    図書館の隠れたポテンシャル」を引き出す4冊『知の広場』『サブジェクト・ライブラリアン』『情報リテラシーのための図書館』『シリアの秘密図書館』 机は勉強する大学生や高校生に占領され、読みたいはだいたい貸出中、音を立てれば「シーッ!」と怖い目で睨むメガネをかけた図書館員、映画で登場する図書館の典型である。 インターネットで検索すれば欲しい情報がすぐに手に入ってしまう時代に、日を含む世界各国の図書館は生き残りをかけて、古いイメージから脱却しようと挑戦している。の虫だけを相手にしたサービスでなく、幅広い層に利用され、図書館ならではの専門性を活かした問題解決を行い、知識社会を生きる市民のサポーターとして、なくてはならない存在になろうとしている。 存在意義と役割をアップデートしようとする試行錯誤の過程を明らかにし、スペース、サービス、教育、社会的意義の切り口から図書館の高いポテンシャルを解放す

    「図書館の隠れたポテンシャル」を引き出す4冊 - HONZ
  • 『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』日常風景に投影された、世界の分断 - HONZ

    先日、新潮ドキュメント賞が発表され、ブレイディみかこさんの『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)の受賞が決定した。この作品を高く評価するのが、文藝春秋で数々の名ノンフィクション作品を送りだしてきた下山 進さん。作の魅力がどういうところにあるのか、特別に寄稿いただいた。(HONZ編集部) 新潮ドキュメント賞を受賞したブレイディみかこ 『子どもたちの階級闘争』を読んだ。素晴らしかった。 300ページで定価2592円って、どれだけ部数を絞ってるんだ? と最初腹立たしく思ったが、読んでみて、このクオリティだったらまったく惜しくない。 1996年にクールな英国に憧れて渡英した筆者は保育士だ。 託児所の日常が描かれるのだが、ここで凄いのは、その日常を子どもたちやその母親、そして保育士たちの世界のドラマで読ませつつ、英国の政治そのもの、のみならず世界のあちこちで起

    『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』日常風景に投影された、世界の分断 - HONZ