ドイツに29年住んで、この国ではもはや良好なサービスを期待しなくなった。「ここはドイツなので、よいサービスはない」と思うようにしている。 以前、食堂の店員がコースターを客の前に手裏剣のように投げた姿を見かけたことがある。その場にいたある日本人は「ドイツに5年間住んでいるが、こうした態度には、いまだに慣れない。客に対して最低限の思いやりがない」と憤慨していた。 多くの日本人は、目の前に物を投げられると「邪険に扱われている」と不快に思う。繊細な客の中には、犬や猫の前に餌を投げる情景を連想する人もいるだろう。 しかし私はこのとき、店員がコースターを客の前に投げるのを見てもまったく怒りを覚えなかった。その理由は、「この国のサービスというのはこんなものだ」と悟っていたからである。以前私は会議の席で、ドイツ人が自分の名刺を客に1枚ずつ手渡さずに、テーブルの上に投げたのを見たことがある。名刺すら投げる人