アントン・ナヌート クラシック音楽愛好家の間では知る人ぞ知るスロヴェニア出身の指揮者である。 私はナヌートと出会わなければ、今も指揮者を志すことはなかったと思っている。 ナヌートとの出会いは、紀尾井シンフォニエッタ東京(現・紀尾井ホール室内管弦楽団)で指揮研究員をしていた時期であった。彼は同オーケストラに召喚され、ブラームスの交響曲4番を演奏した。 私は全てのリハーサルを見学し、休憩中も指揮者の控室にお邪魔し、マエストロがどのように音楽と向き合っているか、垣間見させていただいた。彼はリハーサル中も休憩中も何も変わらなかった。控室ではポケットスコアを片手にずっと鼻歌を歌い、奥様の淹れたビタミン入りレモンティを不味そうに飲み、奥様と口喧嘩。機嫌が悪いのかと思えば、私に一言「いいかい、ショウジ、次は君がいつかこの曲を演奏するんだよ、ブラームスという素晴らしい作曲家の作品を、これからの時代もずっと