日本の空をみつめて―気象予報と人生 [著]倉嶋厚[掲載]2009年10月25日[評者]平松洋子(エッセイスト)■空と心のうつろい豊かにつづる 季節の気配は空のなかにある。きょうは空いちめん、絹糸のようなすじ雲が広がっていた。 空は刻々とうつろう。ひとのこころもまたおなじ。そのふたつのありさまに気象の専門家として自身を映し、空をみつめてきたのが倉嶋厚さんである。 なんという豊かな一冊なのだろうと思う。なんという切なさに溢(あふ)れた一冊だろうとも思う。 かつて倉嶋さんには七十三歳のとき鬱(うつ)病を患って自死をはかり、復帰をはたした経緯がある。その苦渋の日々を綴(つづ)った著書はおおきな反響を呼んだ。本書に編まれているのは、それ以降に書かれた文章である。 まえがきでみずから「最後の著書」と断じ、過去二十数冊の著作と違うのは「八十歳代の老年となり、妻を亡くした孤老の暮らしの中で、残り少ない日々