唐突ながら、質問をひとつ。在日コリアンのルーツを辿(たど)ると、朝鮮半島の北と南、それぞれの割合はどのくらい? 五対五? 北六、南四? 逆に北四、南六? 残念、いずれも不正解。実のところ、在日の九割は南、つまり現在の韓国にルーツがあるとみられている。 そうなると、一九五〇年代末に始まり、十万人近くもの在日が北に渡った“帰国運動”とは、いったい何だったのか。それはたとえば、仮に日本が南北に分断されているとして、九州出身の在米邦人とその家族が、親類縁者も知り合いもいない北海道に移住するようなものであった。しかも、資本主義国から社会主義国への集団移住という、現代史上、類例のない異常事態だったのである。本書は、この出来事をアカデミズムの立場から初めて本格的に論じた著作と言ってよい。 その画期的な論点は、北朝鮮が“帰国”を強力に推し進めた理由が、労働力不足を補うためという従来の説ではなく、日朝国交樹