昨今、「本格ミステリ冬の時代はなかった」というような暴論が一部でまかり通っているようだが、これはいかがなものか。もちろん、「本格ミステリ冬の時代」と称するしかない時期は、確かに「あった」。多くの本格ミステリ・ファンたちが、人に隠れ後ろ指をさされながら、それでも本格ミステリを読んできた時代を「なかった」と言うのは、歴史の改竄でしかない。 というような趣旨の文章を、書いてみようと思っています。というのは、「本格ミステリ冬の時代」について語られるとき、殆どは事実認識の誤りか、さもなくば「だってあったんだもん」式の印象評ばかりで、あまりにも私自身が物足りないからです。 事実認識の誤りというのは、例えば、以下のような文章を指します。 清張には多くの追従者たちが続き、やがて社会派の一大ブームを巻き起こすに至った。社会派の出現を探偵小説の進歩向上の成果であると見なした日本探偵小説文壇は「行くぞ一億社会派