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ブックマーク / www.aozora.gr.jp (3)

  • 夏目漱石 三四郎

    うとうととして目がさめると女はいつのまにか、隣のじいさんと話を始めている。このじいさんはたしかに前の前の駅から乗ったいなか者である。発車まぎわに頓狂(とんきょう)な声を出して駆け込んで来て、いきなり肌(はだ)をぬいだと思ったら背中にお灸(きゅう)のあとがいっぱいあったので、三四郎(さんしろう)の記憶に残っている。じいさんが汗をふいて、肌を入れて、女の隣に腰をかけたまでよく注意して見ていたくらいである。 女とは京都からの相乗りである。乗った時から三四郎の目についた。第一色が黒い。三四郎は九州から山陽線に移って、だんだん京大阪へ近づいて来るうちに、女の色が次第に白くなるのでいつのまにか故郷を遠のくような哀れを感じていた。それでこの女が車室にはいって来た時は、なんとなく異性の味方を得た心持ちがした。この女の色はじっさい九州色(きゅうしゅういろ)であった。 三輪田(みわた)のお光(みつ)さんと同じ

    iteau
    iteau 2009/01/01
  • 寺田寅彦 茶わんの湯

    ここに茶わんが一つあります。中には熱い湯がいっぱいはいっております。ただそれだけではなんのおもしろみもなく不思議もないようですが、よく気をつけて見ていると、だんだんにいろいろの微細なことが目につき、さまざまの疑問が起こって来るはずです。ただ一ぱいのこの湯でも、自然の現象を観察し研究することの好きな人には、なかなかおもしろい見物(みもの)です。 第一に、湯の面からは白い湯げが立っています。これはいうまでもなく、熱い水蒸気が冷えて、小さな滴になったのが無数に群がっているので、ちょうど雲や霧と同じようなものです。この茶わんを、縁側の日向(ひなた)へ持ち出して、日光を湯げにあて、向こう側に黒い布でもおいてすかして見ると、滴の、粒の大きいのはちらちらと目に見えます。場合により、粒があまり大きくないときには、日光にすかして見ると、湯げの中に、虹(にじ)のような、赤や青の色がついています。これは白い薄雲

  • デンマルク国の話 - 内村鑑三

    信仰と樹木とをもって国を救いし話 内村鑑三 曠野(あれの)と湿潤(うるおい)なき地とは楽しみ、 沙漠(さばく)は歓(よろこ)びて番紅(さふらん)のごとくに咲(はなさ)かん、 盛(さかん)に咲(はなさ)きて歓ばん、 喜びかつ歌わん、 レバノンの栄(さか)えはこれに与えられん、 カルメルとシャロンの美(うるわ)しきとはこれに授けられん、 彼らはエホバの栄(さかえ)を見ん、 我らの神の美(うる)わしきを視(み)ん。 (イザヤ書三五章一―二節) 今日は少しこの世のことについてお話しいたそうと欲(おも)います。 デンマークは欧州北部の一小邦であります。その面積は朝鮮と台湾とを除いた日帝国の十分の一でありまして、わが北海道の半分に当り、九州の一島に当らない国であります。その人口は二百五十万でありまして、日の二十分の一であります。実に取るに足りないような

    iteau
    iteau 2008/05/10
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