新刊小説を避けている。むかしからの悪癖で治らない。「死んでしまった作家なら大抵のことを許せる気がするんだ」と、村上春樹がどこかで書いていた。ボルヘスは、「他人の声を求めているのに、同時代の作家には自分の声しか見いだせない」となにかのインタビューで答えていた。いずれの場合も同時代性が問題になっている。おれだって、現代に喫緊のテーマをこんこんと語られたら息が詰まる。どうしても喧嘩をしたくなる。しかし作家のところに殴り込みに行くわけにもいかない。そんなことをして何になる。 この件に真っ向から反駁しているのはヴォネガットである。かれに言わせれば、奴隷や女性を使役していた時代の白人男性が書いたものは、それがどんなにすばらしかろうと評点が下がる。けっきょくは、女性や奴隷に働かせているあいだに思索にふけったわけだから。村上春樹はデビュー作のなかで、このあたりのことをずいぶん柔らかい言い方に直した。つまり