「味」は信号だが、「おいしい」は経験だ。 味覚というものは、食べ物が体に入ってくる時に最初に感じるセンサーの役割になる。甘味はエネルギー源となる糖、塩味はミネラル、うま味はタンパク質、酸味や苦味は腐敗物の存在を感知する。 では、塩何パーセント、砂糖何グラムといった味覚が最適化されれば、自動的に「おいしい」になるわけではない。料理の見た目やにおい、口に入れたときの食感やのどごし、風味の全てで、わたしたちは味わう。 さらに、昔から食べ慣れているかも含め、いまの体感と過去に学習してきた記憶を総動員して、「おいしい」と感じる。ふだんの食生活で見過ごされがちだが、「おいしい」とは、結構複雑な結果なのだ。 本書は、この味覚と「おいしい」を手がかりに、食べるとは何かを探求したもの。 家系ラーメンがおいしい理由は、モルヒネと同じ 最も興味深かったのが、「油」の存在だ。料理に不可欠で、かつおいしくさせる油脂