建築家のステファノ・ボエリ氏はいつも樹木のことで頭がいっぱいだ。その原点は子どものころに読んだ小説「木のぼり男爵」にある。少年が樹上の世界に入っていき、二度と下りないと誓うという話だ。 ボエリ氏は「木は個性豊かだと思う」「それぞれの木ごとに成長の跡や歴史、形がある」と語る。 当然、ボエリ氏の最も有名な建物「垂直の森」にも子どものような驚きがある。故郷ミラノに建てられたこの集合住宅は緑であふれており、ファサードは生きた有機物に変貌(へんぼう)を遂げている。 プロジェクトを構成するタワーマンション2棟は高さ80メートルと112メートルで、約2万本の樹木や低木、植物が育つ。不規則に並べられたバルコニーからは緑があふれ、側面をつたって広がっている。ボエリ氏の推定では、入居者ひとりにつき樹木2本、低木8本、植物40本がある計算だ。 その恩恵は美的側面だけにとどまらない。各部屋に日陰を生み出し、住民の