RESEARCH 「語る科学」 まわる分子との対話 -ATP合成酵素のしくみを探る 野地博行東京大学 生産技術研究所 数十億年の間、生体内で回り続けてきたATP合成酵素。生きもののエネルギー用のお金をつくり出すこの分子の動きを詳しく観ることで分子の個性がみえてきた。分子に語りかけ、その反応を丹念に観る。「らしい」を「である」に変える1分子観察でミクロの世界をのぞく。 1.はたらきものの回転モーター 私たちが生きていくために必要なエネルギー。エネルギーは食事として取り入れた糖や脂肪などを分解する時に出てくるのだが、それを実際に使える形にして蓄えておく必要がある。ちょうど自動車にとってのガソリンにあたるものが、生体内ではATP(アデノシン三リン酸)(註1)という小さな分子である。ATPは、エネルギーを必要とするところ全ての場を巡っているので“生きもののエネルギー用のお金 ”と言われることもある