◇『〈盗作〉の文学史--市場・メディア・著作権』 (新曜社・3990円) ◇冷静さの背後にある鋭敏な批評精神 文字通りの労作。「文芸における盗作事件のデータをここまで揃(そろ)えた書物は過去に例がなく、類書が絶無にちかいことだけは自信をもって断言できる」と著者自身が断わっている。確かに新聞雑誌の小さな記事まで参照されていて感嘆する。 とはいえ難しい研究書ではない。文末に参照記事が明示されていて研究にも役立つようにできているが、とにかく読み出したら止(や)められない。つまりすぐれた読み物、いや、画期的な文芸評論なのだ。 読ませるのは、もちろん語られている内容が面白いから。仮名垣魯文の盗作事件はじめ、明治時代から説き起こすが、それは序章のみ。第一章「メディアの事件としての盗作疑惑」で、一気に一九六〇年代に突入、倉橋由美子の『暗い旅』と庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』が取り上げられている。前者