その探偵(たんてい)ドラマは、僧侶(そうりょ)が寺の本堂に入ると国宝の仏像がなくなっているのに気づく場面から始まるはずだった。ところが本番になったら小道具係のミスで仏像が置いてある。それでも役者は意を決して台本通りセリフを言った。「ない!」−−▲テレビ放送が開始された直後の半世紀以上前の話である。結局何がなくなったのか視聴者には分からぬまま盗難事件は進行し、めでたく「解決」して番組は終わったそうだ。当時はVTRがなく、ドラマも撮り直しがきかない生放送だったから、こんな珍事が起きたとタレントの関口宏さんが著書「テレビ屋独白(どくはく)」(文芸春秋)に書いている▲歌番組でも時間が押して、お別れのスローなブルースがロックのようになってしまったことがあったとか。だが、何が起こるか分からない「生(なま)」こそがテレビの本質だと関口さんはいう▲最近はVTRのおかげでバラエティー番組も長時間録画し、テレ