中国由来の「泰山府君」を延命長寿祈願のため祀った晴明 陰陽師ブームの真っ最中に公開された映画『陰陽師』(監督・滝田洋二郎、原作・夢枕漠)で、安倍晴明が「泰山府君たいざんふくんの法」を使って友人の源博雅を蘇生させるシーンは、野村萬斎演ずる晴明の華麗な舞姿とともに、多くの人びとの印象に残っているだろう。 もちろん、そのシーンはフィクションだが、晴明と「泰山府君」との関係は、三井寺の僧侶・智興のために泰山府君の祭りを執行したという有名なエピソードから知られるように深いものがあった。『今昔物語集』などの説話によれば、師の身代わりを申し出た弟子の証空をも、泰山府君が哀れんで師弟ともども命を延ばしてくれたという。「泰山府君」は、まさしく延命長寿をもたらしてくれる、冥府の神であったわけだ。 泰山府君のルーツは、中国の民間信仰にあった。山東の「泰山」は、古くから山岳信仰の聖地で、「五岳」の筆頭として東方の