塩見鮮一郎の「乞胸 江戸の辻芸人」を読んだ。「乞胸(ごうむね)」という、特殊な身分の人々について記した好著。 江戸時代初期、幕府が多くの外様大名を廃絶に追いやったために、職を失ったサムライが大量発生した。 その中の一部は、由井正雪のように幕府転覆を企てて自滅してゆくわけだが、ごく少数、道ばたで物真似や大道芸などを通行人に見せることによって生活の手段とする者も出てきた。 その代表格が、長嶋礒右衛門(ながしま いそえもん)という人物である。生没年および出身地不詳。どんな芸をしていたのかも不明。 わかってるのは、もとはれっきとした武士だったということくらいである。 浪人だった彼は、生活のために街角で何か芸をしてみせ、通行人からいくばくかの銭を貰って暮らしていたらしい。 人望のある人物であったようで、彼を慕って芸人志望の浪人たちがたくさん集まってきた。 芝居をしたり、三味線を弾いたり、浄瑠璃を謡っ