問題を軍事的実利に還元し、思想を封印するレトリック~『坂の上の雲』は軍国日本をいかに美化したか(第1回)~ 原作者の遺志はそれほど軽いのか? NHKが総力をあげて手掛けてきたスペシャルドラマ『坂の上の雲』の放送が11月29日から始まる。それを控え、歴史学関係者やNHKのあり方を問い続けている市民団体の間から批判の声が上がっている。そこで、以下、数回にわたって、『坂の上の雲』は明治期の軍国日本をどのような手法でいかに美化したかを検討してみたい。 上記の歴史学関係者や市民団体の批判の理由は次の2点である。 (1)この作品をテレビとか映画とか、視覚的なものに翻訳されると軍国主義を鼓吹したかのように誤解されるとしてテレビ・ドラマ化を拒み続けた原作者・司馬遼太郎の生前の意思に反する。 (2)原作の中には歴史の事実に反して、日清・日露戦争の侵略性を美化する内容が含まれ、ドラマとはいえ、これを放送するの