10年あまり前から日本の出版界は不況だといわれる。業界全体の売上高は下降気味で、発行部数はへるというのに、売上高維持のために出版点数を増やそうとする。書店の書棚も飽和状態で読者の目にとまることなく返本され、返品率は4割に近い。倒産する出版社や店を閉める本屋さんが出て来ているという。人々の活字離れ、少子化、余暇の過ごし方の多様化といったことがこの傾向に拍車をかけると説明される。 私は、出版業界には関心があるほうである。それは、私が本好きであるためだけでなく、以前二〇年間近くドイツの書籍業界で働いたことがあるからだ。ドイツでは業界全体の売り上げは昔から横ばいでごくわずか上がったり下がったりするだけで、人々もそれに馴れっこになっている。 ■解体しそうな本 1980年代というと日本が出版不況でなかった頃だが、当時私は日本の本を手にするたびに、自分が関係するドイツ書籍業界を恥ずかしく思った。というの
日本のTV局が欲しいのは、「視聴率を取れる映像」だけである。映像を分析、評価、論評する能力も意思も、まったく持ち合わせてはいない。 南極海で日本の捕鯨船を執拗に追い掛け回す、欧米の環境保護団体の活動など、まったく無視していたのに、ある刺激的映像が配信されると、すべてのTV局がその映像に飛びつき、繰り返し流し続けている。 シー・シェパードと名乗る環境保護団体の船に乗る2人の活動家が、小型ボートから日本の捕鯨船に飛び乗って、捕鯨船の乗組員に「縛り上げられる」映像である。 筆者がこの映像を初めて見たのは、NHK・BSが毎朝放送するBBSニュースによってである。この映像は世界中を駆け回って、「反捕鯨」「反日本」のイメージを増幅させたうえで日本に「上陸」した。それまで南極海における日本の捕鯨船を追い回す欧米の環境保護団体の船の活動を無視していた、日本のTV局はこの映像に一斉に飛びついた。 しかし、日
18日からの通常国会の争点はガソリンなどにかかっている暫定税率である。3月31日までに租税特別措置法改正案(租特法)が国会を通らないと、5年間と区切って延長されていた高い税率が3月末で日切れとなり、翌4月1日から揮発油税法などで決められた“本則”の税率に自動的に戻ることになっている。 これまでこの「日切れ法案」は「国民の生活に密接にかかわる」として与野党の政策論争になったことはほとんどなかったが、今回は民主党が暫定税率に焦点を絞って論戦を挑むことを表明しているからである。 具体的にいうと揮発油税法で定められたガソリン税(揮発油税+地方道路税)は1リットルあたり28.7円。それが租特法によって「当分の間」53.8円になっている。民主党が「四月からガソリンが25円安くなります」といっているのはその差額のことである。法案成立がただの1日でも4月にずれ込むと、その日は本則の税金しかとれない。 通常
もうかなり前になってしまったが、10月28日付けの南ドイツ新聞をひろげると「桜の花を無理やりに死なせた」という見出しが目にとびこんできた。「散華」というコトバがしめすように、私たちは戦死を桜の花が散ることにたとえる。ここでいわれる「桜の花」は第二次大戦中の日本の特攻隊員のことである。 周知のように、第二次大戦中日本軍は米軍艦艇に対して航空機で体当たりする「特別攻撃」をした。記事を書いたドイツ人は、祖国のために命を犠牲にした特攻隊員が戦時下だけでなく、「過去の究明」の精神が欠ける日本国民から現在でも英雄視され続けていると主張する。 この記事によるとこのような特攻のイメージが今や修正されなければいけない。その理由は、ニューヨーク在住・リサ・モリモト監督の映画「TOKKO-特攻」のなかで今まで沈黙してきた四人の元特攻隊員が「洗脳されただけでなく、殴られたり、虐待されたり、拷問されたりするなどの残
昨年12月18日から六カ国協議が北京で開催され、それがきっかで19日に米朝間でバンコ・デルタ・アジア(BDA)実務協議がもたれた。北朝鮮は凍結解除を、米国は「偽ドル札・スーパーノート製造関係者の処罰と偽造ドルの銅板廃棄などの措置」を求めたとある。周知のように、六カ国協議はその後具体的成果もなく休会する。 世界中のほとんどの人は、北朝鮮がドル紙幣を偽造しても不思議ないと思っているのではないのか。というのは、この国が昔からいろいろ悪いことをしているからである。とはいっても、していないことまでしていると主張するのはよくない。1月7日付きフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングで「スーパーノートの出所はCIA?」という記事を読んだ私にはそう思われた。 この記事を掲載したフランクフルトの新聞であるが、ドイツを代表するクオリティペーパーで、政治的には保守・親米的である。よりによってこの新聞が米国
10月9日、北朝鮮が核実験を実施したと発表してから、切実に戦争について考えさせられている。国連安保理が北朝鮮制裁決議を満場一致で決めてから、ライス米国務長官が関係国を駆け巡り、中国の唐家セン国務委員もまた米国訪問の後、慌ただしく北朝鮮を訪ねている。 主要国の外相が一つの目的でこれほど世界を駆け巡った経験は記憶にない。イラクの時だってこれほどの動きはしなかったと思う。それほど世界は切羽詰まっている。 北朝鮮の暴発あるいは崩壊の危機が迫っている状況にあることは明白なのだろうと思う。米中のここ数日の動きは状況的にいえば多分、「圧力だ」「対話だ」といって済む事態でないということを伝えている。 日本政府は安保理の臨検に対して「周辺事態」にならなければ日本として参加できないとしているが、まさに周辺事態と認定しなければならない状況が近づいている。そう覚悟しておいた方がよさそうだ。 ■米中が恐れる周辺国の
私は、自分が長年外国で暮らしているためかもしれないが、日本での靖国神社についての議論の在り方に違和感をおぼえる。問題でもないことを「問題」にしているように思えてしかたがない。 ■暗黙のコンセンサス 日本から送ってもらった坪内祐三著「靖国」(新潮文庫)の後書きの中で作家の野坂昭如が「靖国神社については、戦後語れば、どうしても右か左かの踏み絵風となり勝ちだが、ぼくは、祖母のお陰で、この幣を免れている」と書いている。「右か左かの踏み絵風」とは言い得て妙で、私は笑ってしまった。これは戦後日本社会の暗黙のコンセンサスで、靖国を参拝する人は戦前の軍国主義の肯定する右翼で愛国者あり、それに反対することは左翼・革新で平和主義者と見なされることである。 これが暗黙のコンセンサスであるのは、この「右か左かの踏み絵風」の有効性がおたがいに対立している右と左のどちらからも承認されているからである。その証拠に、頭の
「人間の安全保障」について考えてみたい。 この考え方は、日常的に食べ物は十分あるか、病気になっても治療を受けられるか、仕事はあるか、犯罪に巻き込まれないか、住居はあるか、思想や宗教の自由は守られているか……など「人間の生にとってかけがえのない中枢部分」を守って、すべての人の自由と可能性の実現をめざす、というものだ。 現代のニッポンは、物はあふれて豊かで、こんな考え方は遠い国の話と感じる人もいるかもしれない。しかし、世界一の長寿国でありながら、自殺率も世界で一、二、年間3万人以上の人が自ら命を断っている。都会の繁華街で夜毎、膨大な残飯が出る一方でホームレスの人たちがゴミ箱を唯一の「命綱」として、その日、その日の生をつないでいる。親が子を殺し、子が親を殺す。保険料が払えず、保険証を交付されないために治療が受けられず、死んでゆく人もいる……。 「しあわせ」って何だろう。 人間の安全保障の概念によ
ふだん「政治」なんて遠い世界の話、と感じている人は少なくないでしょう。しかし、衣食住はじめ生活のすべてが、じつは政治の動きと密接に結びついています。 政治が遠く感じられるのは、何かが起こらなければ、その大切さに気づかないほど、わたしたちの感覚がマヒしているからでしょう。 秋田県に「鷹巣(たかのす)町」という小さな、けれども福祉の最先端をゆく町がありました。日本で初めて「個室&ユニット型」の老健施設を建てた町です。以下、浅川澄一・日本経済新聞編集委員の記述から引用します。 『始まりは、1991年に岩川徹町長が誕生したときである。新町長は就任直後に、町民の声を聞いて回る。「住民からは老後の不安が最も多かった」。翌年、すぐにデンマークを視察し、同国に倣って24時間の訪問介護を取り入れる。これが、まず本邦初であった。 デンマークへの視察は、町の職員ばかりか町民も加わる。施設や在宅介護の実情をじかに
司馬遼太郎さんの小説『菜の花の沖』を読んでいてなるほどと思わせる一節があった。19世紀、日本がまだ開国に到らない時期、淡路島の水夫から身を起こし、蝦夷地と上方とを結ぶ大回船問屋に発展させた高田屋嘉兵衛の一生を描いた小説で、愛国心ということについて語っている。 「愛郷心や愛国心は、村民であり国民である者のたれもがもっている自然の感情である。その感情は揮発油のように可燃性の高いもので、平素は眠っている。それに対してことさら火をつけようと扇動するひとびとは国を危うくする」 なにやら昨今の日中韓でのいがみあいに似てはいないだろうか。そのむかし筆者も日本ほど愛国心の足りない国民はいないのではないかと嘆いたことがある。だが、このところ台頭している“愛国”的言動についてはちょっと待てと言いたい。司馬さんが書いているように「ことさら火をつけようと」しているような気がしてならないからだ。 司馬さんは小説の中
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