秋本富士夫さん(63)の朝は早い。始発で職場の最寄り駅に着いてまず向かうのは、6時半にオープンするコーヒーショップ。始業までの2時間余り、ライフワークともいえる「絵の研究」に没頭する。日本を代表する大手電機メーカーとその関連会社で37年間、一貫して技術開発や海外向け受注の重要な任務を担ってきた秋本さん。定年後に手にしたのは、“一石四鳥”の充実した毎日だった。 「絵の世界観に魅せられて、定年が待ち遠しくて(笑)」 巷では、「定年退職後、何をしていいのかわからない」という話をよく耳にするが、秋本さんが、“それ”に出会ったのは50代のはじめ。オランダでの単身赴任中に、ベルギーの教会で目にした『ヘントの祭壇画』がきっかけだった。 上下段に分かれたパネルに、キリストの犠牲による人間の救いと天国の賛美が描かれたこの大作を前にして、インスピレーションがわいたという。 「当時、次世代型ネットワーク、つまり