2015年にノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートンが、新著『米国の経済学 移民エコノミストが探る不平等の国』(未邦訳)を10月に上梓した。 米誌「ファスト・カンパニー」は同書を「経済学者にとって耳が痛くなる一冊」と称した。ディートンが、自身を含む経済学者やその助言を受け入れた大統領たちが犯した「過ち」に切り込んでいるからだ。 彼が「格差を招いたのは経済学者だ」と、自らのレガシーにまで疑問を投げかける理由とは──。
――私たちが慣れ親しんでいる民主主義は、かなり過去の社会や技術を前提としていることが問題だと、成田さんは説いていますね。 いくら普遍的な理念を目指したと言っても、私たちが民主主義とよんでいるものの運用は、ざっくり数百年前の人々が考え出したものです。数百年前の社会と技術の環境を前提として作られているのです。 当時はほとんどの人が生まれた土地で育ち、働いて死にました。とくに重要なのが、コミュニケーションがどういうものだったかです。会話はほとんど家族や仲間の間で、情報の伝達はうわさが中心でした。メディアと言えるものは立て看板、貴重品としての新聞や雑誌などしかなかった。そういう、すごく鈍くて、人も情報も流れない世界を前提に民主主義を運営すれば、みんなで決まった日に決まった場所に集まって意見を提出してもらい、それを集計して発表する「お祭り」をやるのも理にかなっていたでしょう。つまり、それが選挙です。
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