タイの高齢化はASEAN諸国の中では群を抜いて進んでいる。タイ政府は高齢者ケアの担い手は「家族とコミュニティー」が根幹である方針を打ち出し、文化・社会の伝統に依存する姿勢だ。一方、人びとの日常では「高齢者ケア」はどのように理解され、実践されているのだろうか。現地でのフィールドワークから見えたことを2回にわたって報告する。 介護施設にマイナスイメージが持たれる理由タイで「高齢者ケア」について質問すると、答えに困られてしまう。日本では「老人ホーム」や「介護保険」といった設備や制度を思い浮かべるが、タイではどちらも一般的ではない。電車内に「優先席」はない。設備や制度が高齢者を支えるのではなく、家族やコミュニティーがその担い手だ。タイ人の多くは「高齢の両親を介護施設に入れたら、親不孝で冷酷だと周囲から非難されてしまう」という。 近年のバンコクでは、外資を含む民間企業や個人がごく一部の富裕層をターゲ