なぜなら、話を聞いた記者である僕自身がその祖父や母親を直接知っているわけではないし、あくまで孫であり息子のK君を通しての情報しか知らないからだ。たとえK君がこうした生い立ちを話してくれるまでに何度もの取材を要して、それが過去の治りきらぬ傷から出る血膿のような話だったとしてもだ。 誘導的に質問を続ける。同情できる要素などいっさいなさそうなその祖父に、いいところはなかっただろうか? 「あんな汚いジジイにいいところなんかあるはずないですよ」と言うK君に、あらためて記憶を掘り出してもらうと、ずいぶんと考え込んだ後にK君は話し始めた。 「そういえば、中学で初めてアイパーかけたときに、カネ出してくれたのはジジイでしたね。隣町までバスで行かないとアイパーやってる床屋がなくて、バス代もくれました」 ケガをして働くことをやめた祖父 酒を飲んで暴れるということはなかったのだろうか? 「気分屋だったんで、酒飲む
たとえば前回の冒頭で「もし食い物万引きしちゃいけないって言うなら、3日間公園の水だけ飲んで暮らしてみればいいんすよ。非行少年なんか、親が3日飯食わせなかったら誰だってなるんすよ」と発言した青年もそうだった。 取材時に25歳だったK君は、まさにかつて子どもの貧困の当事者だった青年だ。母親と父親のなれそめは、母親がキャバクラでバイトをしながら専門学校に通っていたときで、父親は年の離れた元客だった。父の仕事は不動産の営業だったが、バブルの崩壊で父親は借金を抱えて失職し、母親へのDVもあったために離婚。 小学校に上がったばかりだったK君は母親とともに、某県の公営住宅で独り暮らしをしていた母の父親のところに身を寄せたという。 働かず毎日ワンカップを飲んでる祖父 「それで、ジジイが生活保護(受給者)だったんですけど、初めて部屋入ったときの臭いは忘れられない。リアルにうんこ。汚物の臭いで、俺、絶対こんな
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