夏が来れば思い出すものがある。はるかな尾瀬ではなく、乳腺組織だ。 「いっそのこと、アラスカに移住すればいいんじゃないか」 よく、同じくトランスジェンダーの友人とこんな軽口を叩く。気温が高くなってくると、着ている服の枚数が少なくなり、体の線が目立つ。私はいまのところ胸を取る手術を受けていない。たとえ胸を“ナベシャツ”でつぶしていたって、なんとなくTシャツ1枚で過ごすのは心もとない。 初夏から残暑にかけては、やっぱり自分が何かの異常乳腺生物Xに寄生されているという感覚がぬぐえないから「もういいかげんに胸をとろうかな」と思う。そしてウジウジ考えているうちに、やがて栗ご飯の美味しい時期になって、服の枚数が増えてくると乳腺組織のことを忘れがちになる。で、うっかりまた夏がやってくる。 この年間サイクルについて考えると、我ながらテキトーだなとか、ストイックな身体違和持ちからは叱られてしまうのではないか、