日本人が初めて「恋愛」という言葉に出会ったのは、明治時代である。 その頃恋といえば、元禄あたりからずっと続いていた男の「色道」を指していた。男の「色道」の相手は"素人"つまり堅気のお嬢さんではなく、"玄人"。芸者、女給、踊りの師匠、女優の卵などと「ホレたハレた」をやるのが、明治の紳士の「粋」な遊び方。本気でのめり込むのは無粋であり、素人を口説くなど野暮天のすることだとされていた。 玄人女性と恋のゲームやセックスを楽しんだ後で、いいとこの身持ちの固い女を嫁にもらう。時には、レジャー用だった玄人女と恋仲になり、金を積んで身請けしてやり正妻に迎えることもある。こういう風習は戦後まで一部で生き続けた。 さかのぼると、恋の歌を詠んで贈ったり贈られたりの色恋文化は中世の貴族階級で栄えたが、武士が台頭した近世からはそういうみやびな風習は廃れ、恋にうつつを抜かすより家同士の利害を巡った政略結婚が、上流階級